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知的なことをしなくちゃと思うのですが、怠け者でして…。


by nemo2000jp
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カルデロン ─ 社説読み比べ ─

【朝日新聞3月12日付社説─フィリピン家族―森法相はここで英断を─】
http://www.asahi.com/paper/editorial20090312.html?ref=any#Edit2

一家は埼玉県蕨市で暮らしている。36歳の夫は、内装解体会社で後輩に仕事を教える立場になった。38歳の妻は専業主婦。13歳の娘は、音楽の部活動に打ち込む中学1年生だ。

 どこにでもいそうな3人家族。フィリピン人のカルデロン一家である。

 一家は17日に強制送還されるかもしれない。両親が90年代前半に、それぞれ偽造旅券を使って入国したからだ。

 妻は06年に不法在留で逮捕され、執行猶予付きの有罪となった。昨年9月には一家の国外退去処分が確定した。

 退去処分になっても、家族の事情や人道的配慮から法相が滞在を認める制度がある。この在留特別許可を一家は求めたが、認められなかった。

 法務省の姿勢はこうだ。極めて悪質な不正入国だ。十数年滞在した事実はあるが、ほかの不法滞在者への影響を考えると厳格な処分で臨むべきだ。裁判所も退去処分を認めている。

 法律論はその通りだ。だが、だからといって子どもの幸福をないがしろにしていいわけはない。

 彼女は日本で生まれ育ち、日本語しか分からない。「母国は日本。家族とも友だちとも離れたくない」という。思春期のごく普通の女の子だ。

 同じようなケースで、子どもが中学生以上だった場合には在留が認められたことがある。「処分が出た時に長女は小学生。中学生になったのは訴訟で争ったからで、すぐに帰国した人との公平を欠く」という法務省の説明に、説得力はあるだろうか。

 法務省も、近所の親類に預けることを前提に長女だけに在留許可を出し、両親が会いに来るときは再入国を認めるとの案も示した。そこまで配慮できるのなら、森法相はいっそ一家全員に在留特別許可は出せないものか。

 彼女の望みをかなえることが、日本社会に不利益を及ぼすとは思えない。

 長女の学校の友人や地域住民らからは、一家の残留を求める嘆願書が約2万人分も集まっているという。蕨市議会は「長女の成長と学習を保障する見地から一家の在留特別許可を求める」との意見書を採択した。

 一家はすでに地域社会を構成する隣人として認められ、職場や地域に十分貢献している。一人娘は将来、日本を支える一人になってくれるはずだ。

 日本に不法に残留する外国人は約11万人とされる。日本社会に溶け込み、いまさら帰国しても生計が立たない人々は多いだろう。在留特別許可も年1万件前後認められている。

 日本社会ではすでに外国人が大きな担い手になっている。今回のようなケースはこれからも起きるだろう。いまの入管行政でそれに対応できるのか。社会の一員として認めるべき外国人は速やかに救済する。そんな審査システムをつくることが検討されていい。

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【日経新聞3月13日付社説─一家の在留に首相の決断を─】
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20090312AS1K1200612032009.html

これは政治決断が必要なケースである。不法滞在で東京入国管理局から強制退去処分を受けた埼玉県蕨市のフィリピン人一家が、家族そろって日本にとどまりたいと在留特別許可を求めている問題だ。

 埼玉県蕨市に暮らす会社員、カルデロン・アランさんと妻のサラさんは1990年代に他人名義の旅券で入国し、娘ののり子さんをもうけた。のり子さんは同市内の中学1年生で13歳。フィリピンに渡ったこともないし、日本語しか話せない。

 一家に対する強制退去処分は裁判で確定している。東京入管は(1)両親が自主的に出国するならのり子さんだけは在留を認める(2)自主的に出国しない場合は一家を強制送還する――と通告し、今週初め、まずアランさんを施設に収容した。

 入管当局はきょう13日を回答期限としているが、両親にとって13歳の娘を残した出国はつらい選択だ。このままだと母子も収容され、17日に送還される可能性がある。

 たしかに不法滞在者には厳格な対応が欠かせない。しかしこの一家の場合、両親は地域社会に溶け込んで平穏に暮らしてきた。のり子さんもすっかり日本人として育ち、級友に囲まれて学校生活を送っている。

 過去には中学生になった子どもを持つ家族には在留を認めた例もある。しかし法務省や入管当局は、一家に退去命令が出たのがのり子さんの中学入学前だから特別扱いはできないという。前例に固執した、あまりにもかたくなな姿勢ではないか。

 欧州諸国などでは、不法滞在でも平穏に過ごして子どもを育てている場合は柔軟に対応している。それだけに今回の問題には海外メディアも関心を示し、国連の人権理事会が調査を進めるなど国際社会も注目していることを忘れてはならない。

 不法滞在の取り締まりと例外との兼ね合いは難しいテーマだ。制度改革や運用の改善は今後の課題だが、今回はまず人道的な立場から一家の在留を許可すべきである。これを認めたからといって、入管行政の根本が揺らぐわけではないだろう。

 もう時間がない。ここは政治家の出番である。森英介法相、そして麻生太郎首相は一家が日本に残れるよう決断を下してほしい。

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【読売新聞3月15日付社説─在留特別許可 基準がないから不信が生じる─】
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090314-OYT1T01158.htm?from=any

日本で暮らす資格のない外国人に対し、どのような場合に在留を認めるのか。その明確な基準の必要性が浮き彫りになったといえる。

 不法滞在で強制退去処分が確定し、法相に在留特別許可を求めていた埼玉県在住のフィリピン人夫妻が、強制送還されることになった。法相は、13歳になる夫妻の長女だけに在留特別許可を出す。

 長女は日本で生まれ、日本語しか話せない。現在は公立中の1年生だ。「親元で勉強を続けさせたい」として、3人そろっての日本在留を願ってきた夫妻と長女にとっては、厳しい結論である。

 だが、一家が起こした訴訟で、最高裁が強制退去処分の取り消しを認めなかった事実は重い。

 一家には都内などに親類がいる。学校や地域社会にも溶け込んでいる。法相が長女だけに在留特別許可を与えるのは、周囲の助けを受けながら日本での生活を続けられるとの判断からだろう。

 法相は、夫妻の送還後も長女に会えるよう上陸特別許可を出す意向も示している。夫妻には15年以上、不法滞在を続けたという事実がある。それを考えれば、厳格であるべき出入国管理の中で、現実的な対応をしたといえよう。

 夫妻は他人名義のパスポートで不法入国した。正規に入国した後に不法滞在となった場合と比べ、より悪質だと判断したことが、夫妻に在留特別許可を与えなかった要因の一つといえる。

 在留特別許可を与えるかどうかについて、明確な基準は存在しないのが現状である。法相の裁量に委ねられ、ケースごとに、在留を求める理由、家族状況、生活状況などを考慮して判断する。

 不法滞在という違法行為を重くみるか、あるいは、日本での生活実態の評価に重きを置くかで判断は異なるだろう。

 2007年には約7400人の外国人に許可を与えた。日本人と結婚したケースが多い。

 中学生以上の子どもがいる場合、日本に定着しているなどとして、家族全員の在留が認められたケースもある。今回は、強制退去処分が出た時点で長女は小学生だったことも影響したとされる。

 子どもの年齢などに基準があれば、在留を認められない外国人も納得がいくのではないか。一定年数以上、国内に居住していれば在留許可を与える英国などの施策も参考になるだろう。

 明確な基準に基づき、厳正に判断してこそ、出入国管理への信頼が生まれる。

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いつもは朝日新聞と読売新聞の読み比べですが、朝日新聞のネットの中で、
日経新聞も含めた3社の社説へのリンクがあったので、掲載された日付け順
に3社分載せてみました。

この問題は、法律論と人道論みたいなのに分かれて、どちらに重きを置くか
というのが考え方の中心かなと思います。
僕の考え方は読売新聞のものに近く、判例主義みたいな立場を取ります。
朝日新聞の「子どもが中学生以上だった場合には在留が認められたことが
ある。『処分が出た時に長女は小学生。中学生になったのは訴訟で争ったか
らで、すぐに帰国した人との公平を欠く』という法務省の説明に、説得力は
あるだろうか」とか、日経新聞の「前例に固執した、あまりにもかたくなな
姿勢ではないか」というのはやはりおかしく、前者は冷静に見て公平を欠く
と思いますし、後者は裁判での判例みたいに前例に固執するのは公平性を保
つのにいい判断だと思います。しかも日経新聞だけが書いていない、この両
親の「偽造旅券を使って入国」(朝日新聞より)もあるのだからなおさらで
す。日経新聞は何でこれを書かずに、正規に入国してその後不法滞在の人と
比べるかのような記事にするのかがよくわかりません。

ただ、不法滞在者に対しての「在留特別許可を与えるかどうかについて、明
確な基準は存在しないのが現状で」、それが「法相の裁量に委ねられ」(読
売新聞)ている現状は何とかしたほうがいいのではないかと思いました。
日経新聞や読売新聞に書いてあるイギリスなどの欧州諸国のように「一定年数
以上、国内に居住していれば在留許可を与える」という考え方は、民法第162
条(大学時代に民法をかじっていたので、出してみました)の所有権の取得
時効みたいで面白いなと思いました。
ちなみに、民法第162条は、
第一項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を
    占有した者は、その所有権を取得する。
第二項 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占
    有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がな
    かったときは、その所有権を取得する。
というものです。不法滞在は善意のはずはないので、第一項みたいな考え方
になります。これを人間バージョンにアレンジすればいいのかあとは思いま
す。普通の犯罪も時効があるわけですから、平穏かつ公然と生活していれば、
不法滞在者に対して、そんなに厳しく当たらなくてもいいのかなとは思いま
す。

僕は読売新聞と日経新聞は同じようなスタンスだと思っていたので、今回社
説を読み比べてみて、朝日新聞と日経新聞が同じような主張でびっくりしま
した。
内容的には、前例を尊重しつつも在留特別許可基準の不備について言及してい
る読売新聞が一番よかったかなと思います。一番だめなのが日経新聞で、先ほ
ど書いたように、ちょっと恣意的な部分が見られるのがいただけません。ま
あ、「経済」新聞だから仕方のないことなのでしょうが、ちょっとできるサラ
リーマンが読んでいそうな新聞(僕もできるように見せたくて購読していまし
た(笑))なのだから、もうちょっと頑張ってくれてもというか、感情に流さ
れずに事実をしっかり書いてほしかったなと思います。
by nemo2000jp | 2009-03-19 16:54 | 真面目もの